歯医者のどんです。
今回は、歯の神経を抜かないで残す歯髄保存療法の成功率についてみていきましょう!
目次
歯髄は、歯の中にある柔らかい組織です。
患者さんに説明するときは、歯の痛みに着目して、わかりやすく「歯の神経」と説明しています。
実際には、歯の神経だけじゃなくて、歯の血管も入っています。
歯髄は、通常硬い歯によって囲まれているので、お口の中に露出することはありません。
しかし、ケガや虫歯が原因で歯に穴が空いて、歯髄が露出することがあります。
露出した歯髄、何とか残してたい!
と歯医者は思うわけです。
こういった時に露出した歯髄を取らずに、元気なまま温存することを目指した治療が「歯髄保存療法vital pulp therapy」になります。
歯髄を残すためには、
- 歯髄が生きている(良好な血流を持っている)
- 歯髄が感染していない
- 痛みなどの不快症状がない
などの条件が必要です。
ケガで歯が折れて、歯髄が露出することが、特に子供の場合多いですが、昔から水酸化カルシウムというお薬を使って、歯髄を保護して残す治療が行われていました。
しかし、虫歯が深くて、虫歯を取ったことによって露出した歯髄を残す歯髄保存療法は、うまく行かないことが多かったです。虫歯による細菌感染が起きてしまっているので、どうしても細菌感染が残ってしまったからでしょうか。
なので、以前は、虫歯を取ることによって、歯髄が露出した場合は、確実に細菌感染を取り除くために、抜髄、つまり、歯髄を全て取り除く治療が行われていました。
近年では、こういった、虫歯によって歯髄が露出したケースでも、歯髄保存療法を積極的に行う動きが出てきました。
その背景としては、
- 材料の進歩:MTAセメントの活用
- 拡大視野の進歩:マイクロスコープの普及
です。
マイクロスープの拡大視野によって、歯の状態を細かく確認できるようになり、虫歯や歯髄の炎症の状態をより細かく確認することができるようになったのです。
そして、封鎖性と生体親和性の高いMTAセメントの登場により、歯髄を保護する材料として、とても有効であることが臨床的に立証されてきました。
特に、アメリカ歯内療法学会(AAE, American Association of Endodontists)でも2021年に、歯髄保存療法に関するポジションペーパーを出して、より広範囲の歯髄保存療法の適応についての見解をまとめ、一部を抜粋してみると、
- 近年、歯髄保存療法の適応範囲は広がっており、歯髄保存療法は、非可逆性歯髄炎が疑われる永久歯に対しても、根管治療以外の選択肢として検討されるようになった。
- 歯髄の直接観察(手術用顕微鏡の使用が望ましい)が、歯髄保存療法の適応かどうかを判断する情報を与えてくれる。
- 歯髄の露出を恐れるよりは、感染象牙質の完全除去を目指すべきである。
- 次亜塩素酸ナトリウムの使用は、消毒効果や止血性など、メリットが多い。
- ケイ酸カルシウムセメント(MTAを含め)の使用は、メリットが多い。
- 即時修復は、メリットが多い
要するに、歯髄保存療法をもっと攻めてやれるということです。
虫歯が原因で歯髄保存療法を行った場合の成功率が最近論文で発表されてきています。
2021年には、虫歯で露出した歯髄に対する直接覆髄法の成功率に関する論文が発表されました。(Efficacy of direct pulp capping for management of cariously exposed pulps in permanent teeth: a systematic review and meta-analysis, Cushley S et al. Int Endod J. 2021 Apr)
この論文によると、直接覆髄法の成功率は、6ヶ月で91%、1年で86%、2〜3年で85%、4−5年で81%と書いてあります。
そして、2019年の論文では、虫歯で露出した歯髄に対する部分断髄の成功率に関して発表しました。(Outcome of Partial Pulpotomy in Cariously Exposed Posterior Permanent Teeth: A Systematic Review and Meta-analysis, Elmsmari F et al. J Endod. 2019 Nov)
この論文によると、部分断髄の成功率は、6ヶ月で98%、1年で96%、2年で92%と書いてあります。
歯髄保存療法にも、術式が3種類あって、
- 直接覆髄
- 部分断髄
- 歯頸部断髄
があります。
論文的にみると、直接覆髄より、部分断髄の方が成功率は良さそうですが、
歯髄保存療法の術式について、詳しい解説については、私のYouTubeチャンネルの歯髄保存療法に関する動画をみてください
今回は、歯髄保存療法の最新文献について確認してみました。
ポイントは、マイクロスコープの拡大視野による感染象牙質の確実な除去と、MTAによる歯髄の保護がポイントかと思います。
患者さんの中でも、歯の神経を残してほしいという意識がかなり高まっているので、ぜひ歯髄保存療法に真剣に取り組んでいる歯医者さんをみつけて、歯の神経を抜かれないようにしましょう!
歯髄保存療法ができる歯医者についてもぜひ過去の記事を参考にしてください!
それではまた!
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