なぜ歯髄炎になったか①

主訴

右上奥歯がずっと痛い

自覚症状

強い冷水痛、味噌汁などを食べるときに温熱痛あり

術前検査所見

  • 寒冷診:冷却スプレー(パルパー)で冷やしたスポンジを右上第二大臼歯に当てると強くしみて、約15秒間持続する
  • エックス線所見:インレー(金属の詰め物)修復されていて、歯髄に達するような明らかな二次う蝕はなかった。歯髄腔には歯髄結石様の不透過物がみられた。
  • 手術用顕微鏡(歯科用マイクロスコープ)による術前観察:歯の表面を強拡大視野(15~20倍)で観察しても、明らかん歯の亀裂などの異常所見は見当たらなかった。

治療方針

  • まず、修復物を除去し、二次う蝕や亀裂がないかを確認する。
  • う蝕や亀裂がある場合、それらが歯髄に接近していないか探索する。
  • 歯髄に接近していなければ、まずは仮封(カルボキシレートセメント(テンポラリーハード))
  • 歯髄に接近していれば、選択的う蝕除去後仮封
  • それでも、症状が改善しなければ、髄室開拡後、歯髄状態をマイクロスコープで精査

治療1回目

インレーを除去すると、やはりう蝕があった。

しかし、う蝕を削っていくと、意外に深い感じはなく、硬い象牙質が出てきて、う蝕検知液による染色性もすぐなくなった。

明らかな深在性亀裂も見当たらず。

まずは、カルボキシレートセメント(テンポラリーハード)による仮封で経過観察へ

治療2回目

治療後も症状改善がみられず、冷却スプレーで冷やしたスポンジを、患歯に当てると強くしみるとのこと。

感染経路は不明だが、明らかな歯髄炎症状を認め、歯に穴を空けて、実際の歯髄の状態をマイクロスコープの拡大視野で観察することにした。

マイクロスコープで髄室を観察すると、まず炎症反応による病的な石灰化物(歯髄結石)がみられた。

また、一部の歯髄(口蓋根)は、血流を失っており、歯髄壊死を認めた。

非可逆性歯髄炎および歯髄壊死と診断し、根管治療を開始することへ

考察

まだ、治療したばかりで、経過は不明だが、歯髄に達するようなう蝕や亀裂が見当たらないにもかかわらず、歯髄が壊死に陥っていた。

歯髄壊死の原因としては、象牙細管からの細菌の歯髄への不著性漏洩が疑われた。

また、過剰な咬合力による歯髄炎も考えられる。

いずれにしても、根管治療を行うべきかの判断が難しく、強くて持続性の寒冷痛など、明らかな歯髄炎を認める場合は、根管治療を前提とした、マイクロスコープによる歯髄の観察と歯髄状態の診断が、非常に有効だと感じた。

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